三人は鑑定所に向かって歩いていたが、彼方はさっきの龍人族の身分証の効力が気になり、聞いてみることにした。
「クウ、龍人族はどこの村でもあんなに待遇がいいのか?」
「そんなこともないと思うの」
「多分それさ、カザス王国にある言い伝えからだと思う」アリサは前を向いたままチラッと彼方の方を見てそう言った。
「言い伝えってどんな?」
「昔、龍人族がこの国に訪れた時に、この国の人と一緒に辺り周辺の魔物を倒して、食料を沢山分けてくれたんだって。そのおかげでカザス王国周辺には危ない魔物がいなくなって、魔物との危険な戦闘が殆ど起こらなくなったって聞いたことあるよ」
「・・・・・・多分それ、それクウの村の人だと思うの」クウは思っている以上にしょぼくれていた。
「何でしょぼくれてんだ? クウの村の人凄いじゃんか」
「んと、龍はそんな簡単に人助けしないの。多分他に理由があったと思うの。もし魔物を倒しているクウの村の人の事を王国の人が止めに入ってたらここの国の人はみんな死んでたと思うの」
「「「・・・・・・。」」」三人は黙ってしまった。
「ま、まあ、クウも無事入れたことだし、昔の言い伝えの事は気にしないでおこう」彼方が焦ってフォローを入れた。
「・・・・・・そうだね」
「・・・・・・そうして欲しいの。龍人族でも危ない人は危ないの」
「でも、クウは僕たちのことを殺そうとしないよな。危ない人は危ないって事は、クウみたいに人を殺さない龍もいるって事か?」
「うん。いると思うけど珍しいの。クウは昔、人間と暮らしていたことがあったの。だから、人間にも良い人がいっぱいること知ってるの」
なるほどな。クウは顔的に知らない男の人に声を掛けられそうな美少女だから、変な人に付いて行かないと良いんだが。まあ、龍人族も龍だし、怪我するのは相手の方だと思うけど。
「あ、あそこだよ鑑定してくれるお店」アリサが近くの店を指さした。
「あれか、さっさと鑑定してもらって金が入ったらすぐに飯食いに行こうぜ。腹が減ってしょうがない。結局昼も食べれなかったからな」
鑑定屋の立て札には、魔物の核買い取りします! 鑑定所ガンデン と書いてあった。
一軒家なのに、壁が石でできている珍しいお店だった。アリサが扉を開けると、ドアについていた鈴が、カランカラン っと鳴った。中にいた店員のお姉さんがアリサに気付いたらしく声を掛けてくれた。
「あら、アリサちゃんいらっしゃい! 今日はお友達と一緒なのね」
「はい、二人ともあたしの会社の社員です」
はれてクウも社員になったのか。魔物退治に関しては、クウの方が僕より良い仕事しそうだな。まあ、僕はステータス的にしょうがない気はするが。
「あら、会社が大きくなったみたいで良かったわ。アリサちゃん頑張ってたもんね」
「えへへ、ありがとうございます。今日は核を沢山持ってきました」
「ありがとね、こっちで見せてくれる?」アリサはレジの横の机に核を持っていき、店員のお姉さんと話をしていた。
どうしよう。このまま突っ立てる訳にもいかないしな。
クウは暇だったのか、外に出て野良猫と戯れだしてしまった。仕方がないので、彼方はざっくり売っている核の値段を把握しようと、店内を見て回った。
「へぇー。安い核でも最低六千円はするんだな。意外といい値が付いているけど、買取金額も最低二千円って言ってたしそんなもんか。それにしても核ってそもそも何に使うんだろう」一通り見て回るとアリサが彼方に気付き、声を掛けてくれた。
「あ、彼方とクウちゃん、あれ、クウちゃん居ない。彼方ちょっと来て」彼方はアリサに呼ばれてアリサのところに行った。
「少し時間がかかりそうだから隣にある武器屋行って杖買ってきて」アリサはそう言って一万円を渡してくれた。
こっちの世界の一万円って、すごく凝ったデザインしてるな。芸術は分からんけど、絵が芸術的な気がする。なんかデザインが凄いな。
「分かった、ありがとな。行ってるよ」彼方は外に出てクウを拾うと、すぐ右手にある武器屋に行った。
カランカラン
「あら、いらっしゃい。うちの店は初めてかな、どんな武器を探しているの?」
「こんにちは、お金もそんなにないので、安くて使いやすい杖がいいです」
「そうねぇ、安いものだとどうしても高いものより使い勝手は悪くなってしまうのよ」彼方と店員のおばちゃんが話している中、クウが突然一つの武器を指さした。
「クウこの杖良いと思うの」クウは長くて濁った杖を手に取った。先端に水晶が付いていたが、ヒビが入っていて、水晶も濁っていた。
僕は杖のことは分からんけど、濁っているし、ヒビが入っているけど大丈夫なのかな。売り物だし、あんまりにも粗悪品だと流石に店に置いたりしないよな。平気なのかな・・・・・・。
「杖に関してはよく分からんがとりあえず買っておく? 他の武器と比べてもかなり安いと思うし」彼方がそう言うと、店のおばちゃんが、彼方たちを止めに入った。
「あんた達新人さんでしょ? この武器は止めておいた方がいいと思うよ。重いし、魔法の威力も殆ど上がらないって聞くから」
店のおばちゃん、お客さんに自分の店の物を買ってもらうことより、お客さんたちのことを心配するんだな。この店は信用できるお店なんだろうな。
「だってさクウ。おばちゃんもそう言っているし、止めた方がいいんじゃないか?」
「嫌なの。クウはこれが欲しいの」
何でそんなに頑固になってるんだろう。長いし、見た目もパッとしない杖だし。何か思い入れがある物と一緒だったのかな。まあ、安いし、本人がこれがいいって言っているから、あんまり気にしなくていいか。
「おばちゃん、忠告してくれたところ申し訳ないんだけど、やっぱり買わせて貰うよ」
「そうかい、怪我しないようにだけは気を付けるんだよ。千五百円ね」
「分かりました。僕も自分の買いたいのでもう一つ選びま、」
「彼方はこれ」クウがまた一本の杖を指さした。その杖は長さが短く、先端についている透明のクリスタルが濁っていた。
クウは何でこんな不良品みたいな物ばっかり選ぶんだ?
「さすがに自分の杖くらいは良いやつ買うからな」
「これだってすっごく使えるの! 彼方のバカ! 買えぇぇ!」クウが騒ぎ出してしまった。
この野郎、騒いで無理やり買わせるつもりだな。
「ダメだクウ。これは僕が使う杖なんだ。もっと高くていい杖を・・・・・・グハッ!」彼方は腹を殴られ倒れた。
な、なんてことしやがるんだ。僕は自分で選びたいんだ。
彼方は体を起こそうとしたが、クウが彼方の上に乗っかり座り込んだので、起き上がれなかった。そのままうつ伏せになって硬直していると、クウにポケットを探られ、アリサから貰った一万円が奪い取られてしまった。
「おばちゃん。これ下さい」
コメント