登場人物
主人公:『兵藤 拓哉』 主人公(ヒロイン):『高坂 あかね』
僕は雷ノ辺高校一年の兵藤拓哉だ。早速だが、僕には気になる子がいる。その子の名前は高坂あかね。高坂さんは、これといって勉強ができるわけでもなく運動もそこそこ。まるで顔を見られたくないと言っているかように、長い前髪で顔を隠している。そんで、眼鏡をかけていて、クラスの隅でポツンと本を読んでいるようなタイプだ。まぁ、典型的な陰キャってやつだな。
それに比べて僕、自分で言うのもなんだが、僕は友達が多く高校が始まってから四カ月でもう三人に告白されている。僕は中学時代にキラキラしたグループの隅で、友達とアニメやゲーム、アイドルの話をしていた。特にアイドルの事はよく話していて、写真集を持ってきて教室の隅で仲間たちとそれを見ながら話していた。
モブA「俺はかなちゃん押しだな。やっぱりかなちゃん最高!!」
モブB「俺はこのみちゃんだな!このみちゃんしか勝たん!!」
「僕は絶対あずさちゃんだ!あずさちゃんマジ天使!!お前らあずさちゃんの良さが分からないなんて人生全部損してるぞ!」
モブA「それを言うなら人生半分だろ!何であずさちゃん押さないだけで人生全部損しちまってるんだよ!俺らが生きてる意味ないってことかよ」
「お前らが生きてる意味かぁ、ねぇなぁ~。もうな~んにもねぇなぁ~。が~っはっは!」
モブB「あ、拓哉ひっでぇ事いうな~。そんなんだから彼女できねぇんだよ」
「うぐっ!!!そ、その言葉は僕には大ダメージだ」
モブA「うぐっ!!!その言葉は俺にも大ダメージだったぜ」
モブB「うぐっ!!!俺も彼女いない歴イコール年齢、ブーメランが刺さっていく・・・・・・。」
「いや、言ったお前も含めて全員ダメージくらうのかよ!」
モブA「この言葉は今日から俺たちの間では禁句にしよう」
「「「そうだな!!」」」(全員でそう言った)
「それにしてもあずさちゃん可愛いなぁ~」
「まだ言ってるのかよ!笑」
中学時代の僕はあずさと言うアイドルの大ファンだったのだ。
そんな僕も高校生になった。僕は体を鍛えてもさっとした髪を切り、しっかり高校デビューを成功させた。はっきり言って今の僕はモテる。中学時代とは違い、せっかくスクールカースト上位、それも最上位といっても良い程の上位になったんだから、仲のいいカースト上位の女子と付き合いたいと思っている。いや、正確には思っていたってところかな。
ここからは何で僕が地味で目立たない高坂さんのことが気になっているのかについて話すことにしよう。
それは、放課後に忘れ物を取りに教室に戻った時の事だった。
偶然高坂さんも教室に残っていた。高坂さんは窓を開けて窓の外を見ていた。
7月の暑い時期に窓なんて開けるなよな、教室が暑くなるだろ! って思ったけど、教室には高坂さんしか居ないし、僕ももう帰るからまぁいっか。
僕は窓の外を見ている高坂さんをボケっと見ていると、窓から風が吹いてきた。そして、いつも降ろしていた高坂さんの前髪がふわっと上がって初めて高坂さんの顔が見えた。その時見た高坂さんの顔が、僕の中学時代の押しのアイドルあずさちゃんにそっくりだったのだ。
僕は一瞬似ているだけだと思ったが、あれだけずっと押し続けていたアイドルを見間違えることはない。何なら今も友達には内緒でこっそり押し活を続けている。僕は『高坂さんは絶対あずさちゃんだ!』そう確信した。
ボケっと突っ立っている僕に高坂さんが気付いたようで、窓を閉めて帰る準備を始めた。
僕は咄嗟に、何か話しかけなきゃ! という思いが込みあがってきて、気が付いた時には声をかけていた。だってあずさちゃんと話せるチャンスだぜ? 教室で二人っきりで、話をするチャンスなんてめったにないぜ。
「あのさ、高坂さん」
髪で顔が隠れているから表情までは見えなかったけど、高坂さんは一応こっちを見てくれた。
ヤバい、高校デビューして間もない僕に会話の話題が何にもない状態からいきなり話題を見つけるなんてできるか!? 落ち着け、前髪で顔を隠してるんだから、アイドルってことはバレたくないに決まってる。何か話す内容を見つけないと! あずさちゃんなんだから!!
僕が考えている間に高坂さんはため息をついて話し始めた。
「なに? 何か用? 用が無いなら私帰りたいんだけど」僕はそう言われ、何か話す内容が無いか探すために教室を見渡した。すると、時計の時刻が夕方の6時30に差し掛かっていた。それを見た僕は咄嗟にこう言った。
「あのさ、もう暗くなる時間だし、家まで送っていこうか?」それを聞いた高坂さんは驚いたようにこう言った。
「えっ!? 何で? あたしあんたと一回も話したことないでしょ?」
「そ、そうだけど・・・・・・。ほら、最近何かと物騒だし、女の子一人で帰るのって危ないかなって思って」
「良いけど、あたしの家遠いよ? あんたの家どっちの方?」
「僕のことは気にしなくていいよ、どうせ帰っても誰も居ないし」
「あそう、じゃあ・・・・・・、まぁ良いけど・・・・・・。」
よっしゃぁぁぁぁ! あずさちゃんのことを家まで送っていくことになったぞ! これはお近づきになれるチャンスだ! うっほほ~い!!・・・・・・。いや待て、冷静になれ。ここで僕があずさちゃんのファンだって事に気付かれると、折角スクールカースト最上位にいるのに、
(ここから妄想)
友達A「アイドル好きとか、オタクだったんだな(笑)」
友達B「オタクはキモいから関わって来ないでくれない? マジ最悪なんだけど」
友達C「うわ~、今まで俺たちのこと騙してたわけ? やっぱりオタクのやることは違うわ~」
ってことに成りかねない! あずさちゃんと帰れるのは嬉しいけど、ここは絶対にあずさちゃんって気づいていないふりをして、ファンだってことがバレないようにしないといけないな。
「それじゃ、行こっか!」高坂さんは帰る準備が終わったらしくそう言った。
「お、おう!」僕はできるだけ普段の自分の平常心を装いそう返事をした。
**********
『帰り道』
「遠いって言ってたけど、チャリじゃないんだな」
「そうだよ、極力歩くようにしてるの」
「へぇ~、バスとか電車も使わないのか?」
「バスは使うわよ、雨の日だけね。あ、あと遅刻しそうな時とか」
「なるほどな、何で極力歩くようにしてるんだ? こんな真夏に歩いてたら暑いだろ」
「う~んと、体力づくり?」
「何で疑問形なんだよ(笑)」
「いいでしょ別に。それよりさ、何で急に私に話しかけてきたの?」
ヤバい。高坂さんが本当はあずさちゃんだって、僕が気付いて話しかけたことがバレてるのか!? いや、もしバレてるならアイドルが家まで送ることに承諾するわけがない。ここは平常心を保ちつつスクールカースト上位っぽいことを言わないと。
「いやさ、僕結構いろんな人と話をしたりするんだけど、高坂さんとは話したことなかったなって思ってさ」
「え、それだけ? 普通それだけで家まで送ってく?」
ヤバい、バレる!! 何かはぐらかせ!!
「うん、それだけだけど、僕は話したり遊んだりしてからじゃないと、その人のことをどう言う人なのか判断したくないんだ。高坂さんはいつも誰とも喋らずに本を読んでるけど、だからって話しづらい人って決めつけるのは良くないだろ? だからこうして話しかけてみたんだよ」
よしっ! 我ながら良い言い訳ができたぞ!!
「ふ~ん。」
僕たちは暫く美味しいパン屋の話やおすすめのカフェの話をしてコンビニに来た。
「ここまでで良いよ! もう近くだから」高坂さんはそう言った。
そりゃ家教えてくれるわけないよな(笑) まぁ、分かってはいたけど。ストーカーだと思われたくないし、ストーカーもしたくないし、ここで帰るとするか。
「分かった、それじゃあまた明日な!」僕はそう言って帰ろうとすると、高坂さんがこう言った。
「どうだった?」
「ん? どうだったって何?」
「いや、さっき言ってたじゃん。話したり遊んだりしてからじゃないと、その人のことをどう言う人なのか判断したくないって」
「あ、ああ。」
あの言い訳のことか。
「それで? 話してみてどうだった?」
「すっごく楽しかったよ! 高坂さんって、話すの上手だよね。また話したいと思ったよ」
「あそう、分かった。じゃあ、また話したげる」
よっしゃぁぁぁぁ! あずさちゃんとまた話せる!!
「それじゃ、じゃあね!」高坂さんはそう言ってコンビニの角を左に曲がっていったので、僕は来た道を戻って家に帰る方向に歩き出した。
僕が家の近くまで帰って来ると、辺りはすっかり暗くなっていた。家に帰っても誰も居ないので、近くの公園のベンチに腰かけてふと空を見上げた。そこには真っ暗闇の中、明るい満月が神々しく輝いている。
「また話したいなぁ」
僕はそう言い暫く満月を見つめてこう言った。
「この満月の光が僕に勇気をくれますように」
拓哉はそう言うと、暫くそこで空を見上げていた。
**********
私は雷ノ辺高校一年の高坂あかね。早速だけど、私はあずさって芸名でアイドルをやっている。自分で言うのもなんだけど、超有名なトップアイドル。中学生時代はお仕事が忙しくて、友達もできなかったし、ストーカー被害にもあった。だから前髪を伸ばして、顔を隠して。誰にも私があずさだって事に気付かれないようにしている。同じクラスの子の名前も顔も全く覚えていない、どうせ仲良くならないし覚える気は全く無い。唯一彼を除いては、だけどね。
学校では極力誰とも話さずに毎日曲の歌詞を読みこんだり、曲自体を聞いたりして過ごしている。運動神経に関しては、はっきり言ってこの学校で一番良いんじゃないかって思ってるけど、極力目立たないようにするために手を抜いて授業を受けている。
そんな私には気になる人がいる。さっき言った彼の事なんだけど、そいつの名前は兵藤拓哉。あいつは私のことを何とも思ってないと思う。ってか名前も覚えてないんじゃないのかな? でも、私は違う。あいつのことを気になりだしたきっかけは、入学してからおおよそ一カ月が経った頃、その季節では珍しく大雨の日のことだった。
その日、私はダンスの練習が休みで、雨が少しでも収まってから帰るために学校に残っていた。
「小雨になる気配もないし、もう諦めて帰ろうかな」
私は学校から出ると、バス停に向かった。暫くしてバスが来ると、バスは私のことを見向きもせずに過ぎ去っていった。
「そっか、大雨が降ってるから。バスって満員で人が乗れない時は、乗車させずに通り過ぎるんだっけ。・・・・・・はぁ。歩いて帰ろ、いつも歩いて帰ってるし」
私は雨の日以外の登下校は基本歩いて通っている。アイドルだから、太るのや筋肉不足になるなんて自滅行為。歩いて40分の距離だけど、極力体を使うことを心掛けでいる。景色を見ながら歩くのが好きなのと、あと体力づくりにもなるからね!
「これだけ大雨だったんだから、バスを使う人が多くて満員になるのはしょうがないかぁ」
私はいつも通っている道を歩いていると、傘をささずにずぶ濡れになりながら大量のパンを持って走って行く男性の姿が見えた。
「うちの学校の制服、傘持ってきてなかったのかな? ってか何であんなにパンかったし(笑) 絶対食べきれないでしょ(笑)」
ぼんやりとその男子生徒のことを見ていると、公園に向かって走って行くのが見えた。
「いや公園じゃ雨に濡れるし(笑) 雨に濡れながらあんだけのパンを食べるとかどんな罰ゲームだよ(笑)」
私は面白半分の興味半分でその公園の方を見てみると、男子生徒が傘の下にドサッとパンを置いて、地面に座るとパンの袋を開けていた。
傘あんじゃん、ってか地面に座ったら泥だらけになるし(笑)
そう思いながら何気なく傘の方を見てみると・・・・・・。
傘の下には段ボールに入った一匹の子猫がにゃーにゃー鳴いている。その男子生徒は、パンを袋から開けると、子猫の居る段ボールの中にちぎって入れていっていた。
そして、その男子生徒はカバンからタオルを取り出すと、傘の下で子猫を拭いていた。
「ふ~ん、あいつ自分はずぶ濡れなのに子猫のことは助けるんだ」
その時、私はあいつが付いているならあの子猫のことは大丈夫だろうと思って、その場を後にして家に帰った。
そしてそれから何時間か経って夜の12時。
「まだ雨止まないなぁ~、明日も雨かな。やだなぁ雨」
私はそんなことを思いながら外を見ていたら、ふとあることを思い出した。
「子猫、大丈夫かな? ・・・・・・さすがにあの男子生徒も帰ってると思うし、私が見に行かなきゃ!!」
私は二階の自分の部屋から降りて玄関に向かった。
あかねの母「あかね、どっか行くの?」
「うん、ちょっと用事思い出して」
あかねの母「もう12時過ぎてるよ!? こんな時間から用事って何!? あんたストーカーされたことあるんだからこんな時間からどっかに行くなんて許さないよ!」
「顔隠していくから大丈夫! じゃあ、行ってくる!!」
あかねの母「ちょっと! 待ちなさい!!」
私は母の言うことを無視して走って公園に向かった。
雨はいまだに大雨。私はまたストーカーされるといやだからマスクとグラサンを付けてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ」あかねは走って公園に向かっている。
公園に着いて懐中電灯を照らすと、まだあの男子生徒が傘の下にいる子猫の横で一緒に座っている。私はその男子生徒に話しかけることにした。
「ねぇ」
「うわぁぁぁぁ!! びっくりした! ごめん、雨で君の足音が聞こえなかったから近くにいることに気が付かなかったよ」
「別に、謝らなくていいわよ」
「こんな時間に制服ここにいると補導されない?」
「あ、まぁ、うん。でもこいつのこと一人にできないし」
「その子猫のことでしょ? あんたがずっと世話してたの?」
「いや、さっき見つけた」
「あ、そう」
さっき見つけただけの猫に普通ここまでする? 明日も雨降ってたら、こいつどうするつもりだったのよ。
「あのさ、何でマスクとグラサン? 不審者にしか見えないんだけど」
「え、ああ、これは気にしなくていいの。そんなことより、その猫どうにかしないと」
へっくしゅん その男子生徒は大きなくしゃみをした。
「はぁ」私はため息をついた。
「私が飼うわよその猫」
「えっ!? 本当か!?」
「ほ・ん・と・う! あんた風邪ひいてるじゃない、早く帰んなよ」
「ありがとう、助かったぜ! いやさ、通り過ぎる人皆に飼えないか聞いてみてたんだけどさ、全員にいろんな理由で断られちゃってさ、もうこの時間だと人いも通らないし、どうしようかと思ったぜ! へっへっへ(笑) へっくしゅん」
「あ、そう」
こいつ、結構良いやつなのかも。バカだけど。
「グラサンのお姉さん家近いのか?」
「近いわよ。歩いて来れる距離だから、あたしがこの子連れて帰るから安心して。そんで、あんたはもう帰んな」
「分かった、ありがとな」男子生徒はそう言うと、子猫を抱きかかえて私に渡してくれた。
「大事に飼ってあげてくれよ! じゃあな!」
「分かってるわよ、あんたも気を付けて帰りなさいよ!」
それから私はその子猫を連れて家に帰った。
次の日
私がいつものように学校へ行くと、「へっくしょん」と、昨日聞いたくしゃみと全く同じくしゃみが聞こえてきた。
私は思わず振り返ると、昨日のずっと猫のそばにいた男子生徒だった。私はすぐに先生からその男子生徒の名前を聞き、兵藤 拓哉って名前だってことが分かった。
それからいつしか、知らず知らずの内にあいつのことを目で追うようになった。
*
あれから二カ月、今日もダンスの練習はない。勿論あいつと話したことも一回もない。ああいう男子って、アイドルに興味ないんだろうなぁ~。私があずさだって言っても普通に流されるんだろうなぁ~。まぁ、また誰かにストーカーされると嫌だから言わないけど。
私は何となく外の空気が吸いたくなった。教室を見渡したが、そこには私しかいなかった。
今窓を開けても誰にも迷惑かからないよね。
私はそう思って、教室の窓を開けた。暫くすると、外からもの凄い風と熱風が舞い込んできた。
暑い。7月だしそんなもんか。
私は何となく誰かが来たような気がして、後ろを振り返った。すると、そこには兵藤君が立っていて、私の方を見ていた。
あ、見てる。これ、もしかして話すチャンスかも! あ、でもわたし友達いないし、あえて根暗なキャラで過ごしてるし、印象悪いかな。あ、そんなことより教室暑くなるから窓閉めないと!
私は窓を閉めた。
これだけ暑い中窓開けてる変な奴って思われたかな? ・・・・・・もう帰ろう。何だか悲しくなってきた。
私が帰る準備を始めると、後ろから声が聞こえてきた。
「あのさ、高坂さん」私は驚いて言葉が出なかった。
高坂さん、か。私の名前知ってたんだ。ってかそんなことどうでもいい、いやどうでもよくはないけど! ヤバい、初めて話しかけられた! どうしよう、何か話したい。いや、落ち着け、ここは平常心を保たないと。ふわふわした変な奴だって思われたら終わり。こういう男子は絶対そういう子好きじゃないと思うから! ギャル系が好きだと思うから!
落ち着け、落ち着け私。多分帰り道は一緒だし、一緒に帰れる雰囲気に持って行く。よし、ちょっとしっかり者の雰囲気で話してみよう!
「なに? 何か用? 用が無いなら私帰りたいんだけど・・・・・・。」
あぁぁぁぁぁ!! やってしまった(泣) 一緒に帰りたいって思っただけなのに。・・・・・・完全に嫌われたぁぁぁぁぁ。
「あのさ、もう暗くなる時間だし、家まで送っていこうか?」
えっ!? 嫌われてない⁉ 大丈夫だったの⁉ ってか何でそんなこと聞いてくるんだろ? あ、私が子猫連れて帰ったこと気付いてた? 気付いてたのこいつ!! だとしたら激おこなんですけど! とっとと話しかけてきてほしかったんですけど!!(怒) 試しに私が猫を連れて帰ったことに気付いていたかどうかカマかけてやる!
「えっ!? 何で? あたしあんたと一回も話したことないでしょ?」
「そ、そうだけど・・・・・・。ほら、最近何かと物騒だし、女の子一人で帰るのって危ないかなって思って」
あ~。そうだ、こいつとんでもなくバカだった。私の事、全く覚えてない。・・・・・・まぁ、マスクとグラサンしてたし、しょうがないっちゃしょうがないんだけどさ。多分何にも考えてないな、こいつ。まぁ、帰り道は途中まで一緒だと思うし、喋るチャンスだし、ここは送ってもらう方向で!
「良いけど、あたしの家遠いよ? あんたの家どっちの方?」
「僕のことは気にしなくていいよ、どうせ帰っても誰も居ないし」
「あそう、じゃあ・・・・・・、まぁ良いけど・・・・・・。」
私は嬉しくて速攻で帰る準備を終わらせた。
「それじゃ、行こっか!」
「お、おう!」
帰り道、私たちは二人で校門の前まで来た。
「遠いって言ってたけど、チャリじゃないんだな」
「そうだよ、極力歩くようにしてるの」
「へぇ~、バスとか電車も使わないのか?」
「バスは使うわよ、雨の日だけね。あ、あと遅刻しそうな時とか」
「なるほどな、何で極力歩くようにしてるんだ? こんな真夏に歩いてたら暑いだろ」
「う~んと、体力づくり?」
「何で疑問形なんだよ(笑)」
「いいでしょ別に。それよりさ、何で急に私に話しかけてきたの?」
私が目で追ってたの気付かれてるかチェーック!!
「いやさ、僕結構いろんな人と話をしたりするんだけど、高坂さんとは話したことなかったなって思ってさ」
「え、それだけ? 普通それだけで家まで送ってく?」
「うん、それだけだけど、僕は話したり遊んだりしてからじゃないと、その人のことをどう言う人なのか判断したくないんだ。高坂さんはいつも誰とも喋らずに本を読んでるけど、だからって話しづらい人って決めつけるのは良くないだろ? だからこうして話しかけてみたんだよ」
「ふ~ん。」
いや、話したことあるし、マスクとグラサンしてたから教室で気が付かないのはしょうがないけどさ、これだけ喋ってんだから声で気付けバカ!!
こいつは一向に私に気が付く様子もなく普通に喋っていた。
こりゃ気付かれないな。
私たちは暫く美味しいパン屋の話やおすすめのカフェの話をして私の家の近くのコンビニの前に着いた。
「ここまでで良いよ! もう近くだから」私はそう言った。
「分かった、それじゃあまた明日な!」あいつはそう言って帰ろうとしていたので、最後に何か話せないかと思って、私はこう聞いた。
「どうだった?」
「ん? どうだったって何?」
「いや、さっき言ってたじゃん。話したり遊んだりしてからじゃないと、その人のことをどう言う人なのか判断したくないって」
「あ、ああ。」
「それで? 話してみてどうだった?」
「すっごく楽しかったよ! 高坂さんって、話すの上手だよね。また話したいと思ったよ」
やったぁぁぁ!! そりゃ、私アイドルだし、テレビ出てるし、動画配信でいろんなこと話してるし! 話すのには自信あったのよぉ! 嬉しぃぃぃ! 待て待て、落ち着け、平常心平常心。
「あそう、分かった。じゃあ、また話したげる」
話したいのは私の方なんだけどね。
「それじゃ、じゃあね!」私はそう言ってコンビニの角を左に曲がって立ち止まった。
コンビニの角からそ~っと兵藤のことを覗き込むと、後ろを向いて、来た道を戻って帰る方向に歩き出していた。それをっかり見届けると、私も家に帰る方向に歩き出した。
私は家に帰ってシャワーを浴びると、二階の自分の部屋から空を見上げた。
「綺麗な満月、空も晴れてて清々しいなぁ~」
「にゃ~」一匹の子猫があかねの所に来て膝の上に座った。
「タヤちゃん来たの?」
私はそう言うと、タヤの頭を撫でた。タヤはメス猫で、兵藤拓哉が見つけた猫だから、たくやの『た』と『や』を取ってタヤという名前を付けた。
「タヤ、今日ね、あんたが一番会いたがってる人に会ったよ」
「にゃ~」
「いつかあいつが私のことに気付いたら、あんたに合わせないとね。いや、そうじゃなくても絶対会わせるよ! この満月に誓って!」
「にゃ~」
「この満月の光が、明るい未来への光になりますように」
ご愛読ありがとうございました。m(_ _)m
続きを書いてほしい方は、コメント下さるとありがたいです!!(*^^)v
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