「海斗、起きて、起きて」
「ん~。ヒナか。もう朝か」
「訓練するわよ!」
「訓練?」
「そう。訓練」
「何で?」
「何で? ってあんたバカじゃないの? 勇者のくせにあたしより弱くてどうすんのよ」
「いや~。一生かかってもお前には勝てないだろ」
「勇者なら勝てるようになるわよ、さっさとあたしより強くなって」
「そんなこと言われてもなぁ。戦ったことないしなぁ」
「ごちゃごちゃうるさい。練習用のゴーレム用意したから戦って」
窓から外を見ると、一体の巨大なゴーレムがトコトコと道を歩いていた。
「はい木刀」
「木刀で戦うのか⁉」
「そうよ。何発か当てればゴーレムも崩れてくるから。はい、いってらっしゃ~い」
ヒナは二階の窓から海斗を捨てようとした。
「ちょっと待てお前」俺は焦っていたのだが、残念ながらそのまま捨てられてしまった。
「うわ~あ~」地面に着く直前に身体を捻って無事に着地した。
「危ないだろ!」ヒナに向かって俺はそう言うと、ゴーレムの方を見て戦う構えを取った。
「普通は危ないじゃ済まないんだけどね、これが勇者の身体能力って事かしら。回復魔法はかけてあげなくても大丈夫そうね」
ヒナはそう呟き、暫く二階の窓から俺のことを見守ることにした。
「ゴーレムかぁ。どうやって勝つんだこれ。とりあえず頭殴ってみるか」俺はこっそりとゴーレムの背後から忍び寄った。
こそこそこそ。
俺はとりあえずゴーレムの頭を殴りつけてみる事にした。
「フゴッ」ゴーレムはびくともしなかったが、こちらに気付いて襲い掛かってきた。
俺はゴーレムの右からのパンチを一旦後ろに跳んで避けた。
ドゴッ ゴーレムの攻撃が当たった地面には拳の形の穴が開いていた。
「あっぶねぇ! 今のくらったら体全身骨折どころじゃ済まないぞ」その後も何度か肩や足などを殴ってみたのだが、ゴーレムはビクともしない。攻撃は難なく避けられるようになってきたが、ゴーレムを倒せるビジョンは全く浮かばなかった。
「これじゃらちが明かないな」
その後も隙あらば攻撃、隙あらば攻撃と、何度も攻撃をしていたのだが、ゴーレムを倒せる気配は一向に無い。そんな時、頭の中で何か声が聞こえてきた。
(((ピピピ 身体強化スキルを獲得しました。)))
「おっ。スキル覚えた。人生初のスキルが身体強化かぁ~。・・・・・・どうやって使うんだ?」
身体強化のスキルを覚えたのは良いものの、スキルの使い方が分からない。
「もう強化されてんのかこれ? 結構簡単にかわせるようになってきてるし」
攻撃を仕掛けてみたがさっきと変わらずゴーレムはびくともしない。
「何も変わんねぇな。とりあえず・・・・・・唱えてみるか」
「「「身体強化」」」
そう唱えた途端、身体が急に軽くなった。
「おお! おお! これならいける」俺はもう一度戦う構えを取った。
「は~。は~。」
何となく息を吐いて体の力を抜くと、今度は少しだけ息を吸って息を止めた。そして、ゴーレムの方に思いっきり跳んだ。
「でーい!」
海斗は一瞬でゴーレムまで間合いを詰め、ゴーレムを切りつけると、勢いそのままゴーレムの後ろまで飛んで行った。切られたゴーレムは真っ二つになり、そのまま崩れて消えてしまった。
「早っ」ヒナは思わずそう言った。
海斗がゴーレムを倒した後、海斗が消えていくゴーレムを見て突っ立っているので、ヒナは海斗の所へ降りて行った。
「あんた身体強化使えたの⁉」ヒナは驚き、話しかけた。
「今覚えたぞ」
「それ特技でしょ? 唱えなくても頭の中で思い浮かべるだけで良いのよ」
「そうだったのか。じゃ、次からそうするわ。・・・・・・ところで、身体強化ってどうやって解くんだ?」
「解除って言えば解けるわよ」
「そうなのか! あ、まって、多分・・・・・・解けたわ」俺は身体強化が解け、倒れ込んでしまった。
「体中がいてぇ」
「そりゃ、そうでしょ。あんなに早く動いたら。身体強化は時間でも解けるみたいね。それにしても使いにくい特技覚えたわね。一回使ったら身体が動かなくなるなんて」
「全身筋肉痛の痛みがはしってるんだけど」
「そのくらい我慢しなさいよ。トレーニングを怠った罰ね」
「俺筋トレとかはやってたけどな・・・・・・。」
「もっとしなさい」
「へいへい。とりあえず、勝ったぞ」
「あ、そう・・・・・・。本当は関節とか柔らかいところ狙って倒すものなんだけどね」
「それ先に言えよ!」
「自分で見つけるもんなの!」
それにしてもあのゴーレムを真っ二つにするとは思わなかったわ。鍛えがいがあるわね。
「そういや、ゴーレムぶん殴ったのに木刀壊れてねえな。」
「ああ、その木刀はちょっと特殊なの。壊れにくくなる魔法が掛かっているのよ。」
「そうなんだな。とりあえずさ・・・・・・。」
「なに?」
「俺のこと家まで運んでくんね?」
ヒナはクスっと笑った。
「はいはい、しょうがないなぁ」
(((面白くねぇよ! 倒れてんだぞ!)))
ヒナは俺の肩を自分の肩に回した。
「いってぇ!」俺の体中に激痛が走った。
「もう、ちょっとくらい我慢しなさい!」
「いや、マジで痛いんだって。」ヒナはごちゃごちゃ言っている俺を家まで運び、ベッドで寝かした。
ベッドに入って暫くすると、徐々に睡魔が襲ってきた。そして、その後すぐに眠りについた。
「あたしのことどう思ってるの?」
ああ、またヒナの夢だ。
「俺はあたしのことどう思ってるのってば?」
どうって聞かれてもな。
「何で答えないのよ」
答えようとしてるだろ!
「あたしは海斗がいなくなったら寂しいよ」
俺の声は聞こえてないのか。
「海斗がいるから、あたしはもう一人じゃないの」
・・・・・・そうだな。
「それじゃあ、もう行くね。バイバイ」
ヒナが暗闇の方へ歩いていく。
「待て、行くなヒナ。そっちに行っちゃダメだ。また一人になるぞ!」
ヒナがどんどん暗闇の方へ消えていく。
行くなヒナ!
「行くなぁー!」
俺は、はっとして目が覚めた。
「いってぇ」
咄嗟に上半身を起こしてしまい、身体に激痛が走った。そして、冷汗が俺の体中を包み込んでいた。
「海斗、起きたの? 何で叫んでるの?」
ヒナが二階に上がってきた。 トントン 扉をノックする音
「入るわよ。」
扉を開け、ヒナが入ってきた。
「うわっ凄い汗ね」
「え、ああ」
「体拭いてあげるから待ってて」ヒナはそう言うと、タオルを取りに洗面所に向かって二階から降りて行った。
またヒナの夢か。今の夢は何だったんだろうな。ヒナがあたしのことどう思ってるのとか聞いてたな。どう思ってるのか答えればいいのか? 夢のヒナには答えようとしてもダメだったな。現実のヒナに答えてみた方が良いのかな。
俺がそう考えている内に、ヒナが二階に上がってきた。
「入るわよ」
バケツとタオルを持ったヒナが扉から入ってきた。
「それじゃ、身体拭くから、服脱がせるわね」
「ああ、ありがと」
ヒナは俺の上半身の服を脱がせ、体を拭き始めた。
「いってぇ」
「我慢しなさいって」
「へいへい。なあヒナ」
「なに?」
「俺もヒナがいないと寂しいぞ?」ヒナは頬を赤らめて、俺に顔が見られないくらい後ろに行き背中を拭いた。
「あっそう。そうなんだ。へー」ヒナはどうでもいいと思っているような言い回しをした。
「あたしは別に寂しくないけどね」ヒナは海斗に向かって強がっているようにそう言った。
「・・・・・・そうか。実はさ、またヒナが出てくる夢を見たんだ」
「へ~。あたしのことが夢に出てくるくらい好きなんだ」
「別にそういう訳じゃないんだけどな」
ヒナは若干イラついた。
「そんで、ヒナがどっかに歩いて行っちゃってさ」
「そうなんだ。それで寂しくなっちゃったのね」
「いや、別にそういう訳でもないんだけどな」
「じゃあ、どういう訳なのよ!」
「いや、どういう訳って聞かれても・・・・・・。」
「何よ、それはあたしのことが好きって事なんじゃねーのかよ!」
「いや、それとこれとは別問題だろ」
「別問題じゃねぇよ! 夢にまで出て来てんだからそれは好きって事でしょ!」
「いやちげぇって。お前が勝手に夢に出てきたんだよ」
「もう、うるさい!」
ヒナはそう言うと、海斗の背中を思いっきり叩いた。
「いってぇぇぇぇー!」
海斗はそう叫ぶと、そのままうずくまってしまった。
ヒナはハッと我に返り、どうしたらいいか分からなくなってオドオドしていた。
「・・・・・・海斗・・・・・・あの」
「いてぇだろヒナ」海斗にそう怒られ、ヒナは涙目になった。
「もう知らない! 海斗のバカ!」ヒナは扉から出てってしまった。
「何なんだよあいつ」
俺はそう言うともう一度横になり、寝なおすことにした。
夜、俺の部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「海斗? 起きてる?」
ヒナか。
「起きてるぞ~」
「あのさ・・・・・・まだ怒ってる?」
「さっきのことならもう怒ってないぞ」
「・・・・・・そうなんだ・・・・・・あの」
「どうした?」
「一緒に寝ていい?・・・・・・その、ベッド一個しかないから」
「ああ、そうだな。一緒に寝ようか」
海斗にそう言われ、ヒナは嬉しそうな表情を見せた。
「うん!」
ヒナは俺のいるベッドに入り、横になった。
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次の日
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今回はここまでになります!!
noteでキックボクシングと言うライトノベル上げてます!!
是非読んで下さい!!m(_ _)m
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