『今日から君が主人公』1章 ~なんで俺が⁉~ 長編

ギャグ

登場人物

神崎(かんざき) 海斗(かいと) 物語の主人公16歳

篠原(しのはら) 琴乃(ことの) 16歳  俺幼馴染

アリカ ティアス ピンク髪の神様

爺ちゃん サブキャラ

森のぬし 黒いドラゴン 詳細不明

『今日から君が主人公』

 ここはポーラン村。緑が多く主に農業を中心とした職業が主流の何の変哲もない村だ。王都までは馬車で二時間くらいの距離で、王都に出稼ぎに出る人も多く、また日帰りで農作物を売りに行く人も多かった。

 神崎(かんざき)海斗(かいと)は錬金で、村でポーションを作る仕事をしている。

 最近はモンスターが増えてきていたらしく、ポーションの売れ行きが良かったので、お金には困っていなかったが、まだまだ裕福とは言えない生活をしていた。それでも、毎日ちょっとずつお金を貯めて、中古の一軒家を買った。一人暮らしをしていて、今は生活する分には全く困っていない。

「今日は野菜の収穫が多かったみたいだな」

 村の八百屋に大量の野菜が置かれていた。俺は立ち止まって何を買おうか考えていると、俺の家に入り浸っている近所の爺ちゃん通称(じい)の声が聞こえてきた。

「お~い、か~いと~」

「どちら様ですか」

「ふざけるでないぞ。わしとは永遠の愛を誓い合った仲ではないか」

「誓い合ってねぇよ! 何で七十超えたジジイと愛を誓い合ったことになってんだよ! で、何の用だ?」

「ほれ、財布の落しものじゃ。わしに感謝せい。」

「ああ、ありが・・・・・・何で俺んちにある財布の忘れ物を爺が持ってんだ?」

「ふぉっふぉっふぉ。俺の家に入ったら机の上に財布が置いてあってな。こりゃいかんと思って、走って追いかけて来たんじゃ」

「俺、鍵かけて出かけたはずなんだけど」

「鍵? かかっておらんかったぞ?」

 いや、それはおかしい、絶対に玄関のカギはかけてきた。玄関のかぎをかけ忘れたりはしないはず。

「どこの鍵がかかってなかったんだ?」

「二階の窓じゃ。ふぉっふぉっふぉ」

「すいませーん! この人不法侵入者でーす!」

 道を行く人々が立ち止まって爺の方を見た。

「なんてこと言うんじゃ! 爺は悲しいぞ」

「悲しい不法侵入者で~す、誰かぁ~、捕まえてくださ~い。」

「みんな見てるから止めておくれ。そう言えば海斗、そろそろ今回の主人公が決まるらしいのじゃよ」

「ああ、そろそろだったな」

 この世界ではある時期になると『主人公制度』によって、主人公が決まる。ポーラン村でも村の掟である主人公制度で毎年その年の主人公が選ばれる。主人公に選ばれると、その村の神様から言われた様々な試練をこなさなければならない。主人公制度は、ポーラン村だけが行っているのではなく、この主人公制度を行うことで神様がその村に居続けてくれているので、どこの村も絶対に行いたい一年に一度の行事になっている。主人公制度は、その業務を全うするに一番相応しい人が選ばれるとされているので、この制度自体に文句を言う人はいなかった。

 前回の主人公に選ばれた人は、牛を育てることだったらしく、主人公に選ばれた人が牛を飼っていた。主人公に選ばれると、決まった試練は絶対に回避不可能でどんな試練だったとしてもこなさなければならない。試練をこなさないと、ペナルティが課せられ、とんでもなく不幸になったり、最悪死んだりする。

 今回はどんな試練になるんだろうな。

 そんなことを考えつつ、俺は他人事のように野菜を買い、帰ろうとしていた。

「広場に行かなくてええのか? 誰が主人公か気にならんのか? お? お?」

「何で煽ってくるんだよ!」

 まあ確かに気になるっちゃ気になるな。見てから帰るか。

 俺が広場に向かうと、掲示板の周りには人だかりが出来ていた。

「うわっ、すっげぇ人集り。こりゃ掲示板にたどり着くまでに時間がかかりそうだな」

「毎回こんなもんじゃよ」

「そうだっけか?」

「そうじゃ、爺が言うんだから間違いないのじゃ。爺を信じれば全てが上手くいくのじゃ」

「その発言が間違いだらけだけど?」

「何が間違っておるのじゃ?」

「気狂ってんのか?」

「何でそんなこと言うんじゃ! 爺は生きる伝説じゃ」俺はため息をつくと、少し離れたところに三人の女の子が立っているのが見えた。

「そんな事より爺、あそこにいる子たち可愛いと思わないか?」

 俺は爺の耳元でにこっそりとそう言った。

「うむ、確かに可愛いのじゃ。どの子もべっぴんさんじゃのう」

「ナンパして来なくていいのか?」

「爺はもう年齢的に無理じゃな、若い頃なら間違いなく行っていたのじゃ」

「爺、年上が好きってタイプの子もいるんだよ。あの子、ほらあの真ん中の子見てみろ」

 爺は真ん中の子をじっくりと見た。

「あの子なんか爺のことタイプだと思うけどな」

「ふぉふぉっ、そうかの?」

「ああ。俺が言うんだから間違いない。キスくらいならさせてもらえると思うぞ? ああいう子はガンガン押せば何とかなるタイプだ」

「ふぉふぉっ、そうかの、そうかの」

「爺、自信を持て! 絶対大丈夫だ! 爺は生きる伝説だ!」

「ふぉふぉふぉっ、ちょっくらナンパしてくるとするかの。成功しても海斗にはやらんからの。ふぉっふぉっふぉ」

 そう言って爺は女の子の方に走って行った。遠くから見ていたのだが、女の子たちに話しかけた途端、爺はボコボコにされてしまった。

「よし、これで本当に生きる伝説になったな。七十過ぎても若い女の子を全力でナンパしに行くジジイか、全く、頭の悪さも人一倍だな」

 俺は爺がボコられているところをしっかりと見届けると、改めて人集りをかき分けて、掲示板に目をやった。

 主人公 神崎(かんざき) 海斗(かいと)

 そこには俺の名前がでかでかと書いてあった。

 俺じゃんか! 爺のやつ知っていたから煽って来てやがったのか。

 いつかは来ると思っていたがもう俺の番かよ。まだ16歳だぞ? 他の奴らはみんな20歳超えてから選ばれていたじゃんかよ。次はの試練は何だ? 豚か? 鶏か?

 俺は掲示板の内容を確認した。

 森のぬしの討伐

(((難易度クソたけぇじゃんか!)))

 森のぬしとは森で一匹で暮らしている黒龍で、今まで一度も人を襲ったことはない。ただそこに居るだけで何の害もない龍だったが、何故そこに居るのか、何のためにあの森に来たのかなど、とにかく謎が多く、何のために倒さなければならないのか見当もつかない。

 俺は人集りの後ろの方に行くと、誰かが俺の名前を呼んでいた。

「か~いと~」

 声の方を振り返ると、幼馴染の(しの)(はら)(こと)()が走って近付いて来ていた。

「あんた、大丈夫なの? あのでっかい龍倒さないといけないんでしょ?」

「だいじょばねぇよ」

「あんなのに勝てる訳ないわよ。誰か代わりの人探しましょうよ」

「代わり見つかんねーだろ」

「うるさいな、早く見つけなさいよ! 見つける努力をしろ努力を」

「今見たばっかなんだよ。大体、主人公に選ばれると回避不可能だろ。牛育てていた人も最初は憂鬱だったらしいし」

「努力しろって言ってるでしょ!」

(((努力努力うるせぇ!)))

 大体、何のためにやるのかもどうして俺が選ばれたのかも分からない。

「つーか、あの森の主と戦ってどうやって勝つんだよ。ってか、通りかかっても何もしてこないし、無害なんじゃなかったのか?」

「無害だとは思うけど、主人公に選ばれたんだからしょうがないでしょ」

「しょうがないったって、ドラゴンだぞ⁉ 一般人がどれだけ修業を積んだとしても、一生かかっても勝てる相手じゃないって言われてるだろ」

「それもそうね、あんたごときの雑魚じゃ一生かかっても勝てないわね。大人しく死になさい」

(((何で大人しく死ぬことを望みだしてんだよ!)))

「ってか何で森の主の討伐なんかしないといけないんだろ? あの主人公制度に書いてあることが本当だったらマジで死んじまうんだが・・・・・・。」

「そうね、大人しく死になさい!」

「ふざけんな、死にたくねぇよ」

「大人しく死ねっつってるでしょ!」

(((さっきから言ってることめちゃくちゃじゃねーか!)))

「はぁ、憂鬱だ。ペナルティがあるから、討伐するしかないんだよな」

「まぁ、冗談はさておき。あんた、とりあえず仲間とか募集したら?」

「ドラゴンと戦うんだぜ? 募集しても集まんないだろ」

「そうよ、その通りよ。あんたみたいなゴミのとこに集まる奴なんかいる訳ないでしょ」

(((さっきから口悪くないか⁉)))

「でも、・・・・・・。そう言えば、あたし丁度今暇なのよねぇ。どうしてもって言うなら付いていってやらないこともない」

「結構です」俺は食い気味に断った。

「殴られたいの?」

「えっと、あ!・・・・・・付いてきて下さい・・・・・・。」

「爺も行っていいかの?」いつの間にかナンパに失敗してボコボコになっていた爺が戻って来ていた。

「無理」俺は即答した。

「そんじゃあアリカちゃんの所に行って色々聞きましょ。元々あんたを選んだのアリカちゃんなんだから」

「そうなのか?」

「ええ、毎回その年の主人公はアリカちゃんが選んでいるわよ」

 この村には神様がいる。その神様の名前は、アリカ・ティアスと言い、どうやら毎年の主人公はアリカが選んでいるらしい。アリカは見た目が同い年くらいで髪がピンクの神様。実際の年齢は不明で、いつも口数が少ない。

 どこの村にも神様が一人いて、村の守り神と言われている。神様は村にモンスターが入って来ないように結界を張ったり、色々な予言をしたりと、村の主要人物になっている。その中の一つに主人公制度があるのだ。

 俺はアリカの家に着いてアリカを問いただしていた。

「アリカ。俺を選んだ理由をもう一度聞こうか」

「・・・・・・最近遊びに来てくれなかったから」

「そんな理由で森の主倒させるのか?」

「・・・・・・遊びに来てくれなかった罰だもん」

(((罰が重すぎるだろ)))

「理不尽か!」

「・・・・・・理不尽じゃないもん、海斗が遊びに来ないから悪いんだもん」

「そもそもあの森の主、倒す意味あるのか? 居るだけで何の害もないだろ」

「・・・・・・ない」

「ないじゃんか!」

「でも、倒さなかったら天界で刑務所に入るよ」

「そうか、戦って死ぬより刑務所に入った方がましだな。どのくらいで出所できるんだ?」

「んー、百年ちょい」

(((百年ちょい⁉)))

「わ、分かった、森の主の討伐をしよう。何日後に試練が始まるんだ?」

「・・・・・・明日」

「明日? 丸腰で戦う覚悟はできてないぞ?」

「じゃあ武器と仲間を集める」

「じゃあ、仲間ならもういるし武器を買いに行くとするか」

「・・・・・・何でもう仲間がいるの?」

「琴乃が付いて来たいんだと」

「・・・・・・そう」

「因みに仲間が要らなくなったら解雇してもいいのか?」俺がそう言うと琴乃がこう言い放った。

「ぶっ飛ばすわよ?」

「じょ、冗談だ」

「あたしが仲間よ。えへへ」

(((琴乃は何で浮かれてんだ?)))

「連れていける仲間の人数、何人でも良い・・・・・・もう一人くらい仲間にしたい人はいない?」

「いない」俺は即答した。

「爺を捨てないでおくれ」

「もう捨てた人が付いてくるんだがどうすればいい?」

「もう一度捨ててくれば良い」

 俺はアリカに言われて、爺の襟をつかんで外に捨てようとしたのだが、暴れて抵抗された。爺は俺を振り払うと、アリカの方に向かって走り出した。

「爺を捨てるのは止めておくれ」

 爺はアリカに近づいた途端、アリカから腹に右ストレートをくらっていた。倒れている爺を放っておいて、アリカはこう言った。

「・・・・・・私も行く」アリカがそう言ったので、俺は結構驚いた。

 神様が決めた主人公制度に神様が関与するのは歴史上初なんじゃないのか⁉ って言うか、はたしてアリカは戦力になるのだろうか? 考えててもしょうがない。一先ず付いて来てもらうか、それより何で森の主の討伐がしたいんだろう?

「それは別に構わんが、アリカは何で森のぬし討伐したいんだ?」

「えっと・・・・・・その・・・・・・」

 アリカは戸惑っていて、何かを思い出したかのようにハッとして、こう言った。

「・・・・・・暇だから」

(((倒す理由になってねぇ)))

「そんな事より、今からギルドで適正測って・・・・・・あたしも一緒に行くから」

 倒れている爺を置いて、俺たちはアリカに言われるがままにギルドに来ていた。ギルド内には農業が主流の町とは思えないほどたくさん冒険者がいて、その殆どの冒険者が酒盛りをしていた。中にはモンスターが全然倒せないと嘆くものや、明らかに強そうな武器を持っているもの、大酒飲み対決をしている者もいた。

 俺は初めて来たギルドに、呆気に取られていた。

「意外と賑やかで強そうな人ばっかりだな」

「あんた、ぼさっとしてないでさっさと測ってきなさいよ、あたしは測ったことあるから。あそこの水晶玉のあるところよ」

 琴乃がそう言ったので、俺は水晶玉の方を見た。

 恐らく琴乃は何回も来たことがあるのだろう。慣れたような口ぶりだったので、琴乃が頼もしく見えた。

「海斗は適正測ったことあるの?」

「いや、全くない」

 琴乃に言われて気付いたのだが、俺は魔法の適正を測ったことがない。適正とは、自分がどんな職業だったのかを知るものだ。

 そもそも職業とは、自分がもっている才能を具体化して、適性職業として現れると言われている。

 例えば、剣の才能があるやつだったら、『剣士』魔法の才能があるやつだったら、『魔法使い』

 俺はどんな適正結果が出るのか少し楽しみだった。基本的には皆下級職なのだが、稀に下級職の魔法使いを通り越して上級職の黒魔導士だった人もいたりする。

 まあ、錬金の仕事をしているくらいだから、俺は練成師か、上位職の錬金術師だろう。

「すみません、職業の適性検査を測りたいんですけど」

「かしこまりました。銀貨三枚になります」

「銀貨三枚⁉」僕は月に銀貨三枚で暮らしている。その内の枚数全てが消し飛ぶのはショックがでかい。ここは、測ってきた! って言って誤魔化そう。よし、アリカの所に戻るか。

「測ってきたぞぉ~」

「・・・・・・何だった?」

「れ、錬成師だった」

「・・・・・・嘘つき」

「げっ」何でバレたんだ⁉

「・・・・・・なんで測らなかったの?」

「ちょっと手持ちが・・・・・・。」

「はぁ、・・・・・・・・。ちょっと来て」そう言うと、アリカは水晶玉のある受付に行った。

「あ、アリカ様! こんなところのどのようなご用事ですか?」

「それ、測りたい」

「どうそ、お測り下さい!」

「・・・・・・こいつが」

「そう言って僕の方を指さした」

「あ、アリカ様のお連れの方でしたか。どうぞお測り下さい、今回は無料での御案内とさせていただきます」

 結構なお金がかかるはずだったが、アリカのおかげでただで測れるようになったぞ! これは凄い。今度こいつを連れまわしていろんなところに行ってみるか!

「嘘っ! お金要らないの⁉」琴乃が興奮気味にそう言った。

「あたしももう一回測って良い?」

「・・・・・・いいよ」アリカが許可を出した。受付のお姉さんもニコニコしてペコッと頭を下げたので、これは本当に大丈夫なのだろう。

「やった!」琴乃はそそくさと測りに行ってしまった。

 適性検査の値段が、銀貨三枚というそこそこな金額だったのは、恐らくギルドで溜め込んでいる魔法を使うからだろう。魔法は魔法具を使って溜めたり、人から貰ったりして溜めるのだが、そんな簡単には溜まらないらしい。ポーラン村は小さな村だから、基本的に魔法具からじゃないと集まらないんだろうな。

「かいと~」

 どうやら琴乃の適性検査が終わったようだ。琴乃が自慢気に紙を見せてきた。

「えへへ。じゃーん」

 汝の職業は赤導騎士

「女騎士よ?かっこいいでしょ」

「良いんじゃないのか? ゴリラっぽいし」

「ぶっ殺す」俺は琴乃のその言葉と同時にボコボコにされた。

 俺・・・・・・もう死ぬのかな。・・・・・・短い人生だったな。空の向こうに天国が見てきた。みんな今までありがとう。

 一度は死を覚悟したのだが、かろうじて生きていた俺は痛みに耐えながら適正を測っていた。

「この水晶玉に手をかざせば良いんだな?」

「そうよ。そしたらこの横にある機械から職業が書いてある紙が出てくるわ。」

「わかった、やってみるよ」俺はそう言って手をかざした。

 俺が手をかざした途端、水晶玉が光り魔力を感じた。横の機会にも魔力が流れ、機械から紙が出てきた。

 俺は若干魔力が持っていかれたような気がしたのだが、恐らくこれは俺の魔力を見て適正を測っているんだろうと察した。

 機械から紙が出てきたので、水晶玉から手を放し紙を取った。

 汝の職業は勇者

「えっ。勇者」

 琴乃がその言葉を発した時、賑やかだったギルド全体が凍り付き、その場にいた人たちがざわつきだした。

「「勇者だってよ」」

「「まさかそんな訳ないだろ。こんな小さな村で勇者適性のある奴なんて生まれてこねえだろ」」

 やじ馬がどんどん集まってくる。

「「坊主、その適性検査の紙見せてくれないか?」」

「え?あ、ああ」

 やじ馬たちの勇者適性のある紙を見せると、皆信じられないという顔をしていた。

「「なあ坊主。俺たちとパーティ組まねえか?」」

「「いや待て。俺が先だ」」

「「待て、お前ら抜け駆けはズルいだろ」」

「「ここは公平にだな、」」

「あの、俺、主人公に選ばれちゃったから」

 俺は適当な理由を付けて断り、そそくさとギルドを後にした。琴乃が信じられないという表情で話しかけてきた。

「あんた勇者だったの⁉」

「よく分からんけどそうだったらしい。練成師か錬金術師だと思ってた」

「あたしもそこら辺の職業だと思ってたけどびっくりね」

「俺が勇者かぁ。実感ないな」

「あんた魔王倒さないといけないわよ」

「え・・・・・・。めんどくさい」

「めんどくさがるな! ってか何で今まで黙ってたのよ。殺すぞ!」

(((さっきからいとも簡単に俺を殺そうとしないでくれぇぇぇ!)))

「いや、適性検査測ったことなかったし、知らなかったんだよ」

アリカは俺たちに気付かれないような小さい声で、「・・・・・・やっぱりそうだった」と呟いた。

「アリカ、なんか言ったか?」

「・・・・・・何でもない」

「そっか、それならいいけど、言いたいことがあったら何でも言っていいんだぞ?」

「分かってる。・・・・・・それより、勇者は代々ぬしを討伐する義務があるの」

「何でだよ!」俺は納得いってなかったが、その話は聞いたことがあった。

「まあ、この際あんたが勇者だってことはもういいわ。ぬしの討伐、気合い入れなさいよ」

「ふざけんなよ、嫌だよ、やりたくないよ!」

「・・・・・・主人公制度は回避不可能」

 それを聞いた俺は、納得入ってなかったがため息をこぼしこう言った。

「分かった分かった、絶対に戦いたくないけど、頑張るよ」

 俺は回避絶対不可能な主人公に選ばれたことを不満に思いながらも、アリカたちにそう言った。

「・・・・・・当たり前」

「そうかぁ~。そんでアリカ。次はどこ行くんだ?」

「・・・・・・パフェが食べたい」

「ぬしの討伐準備どうすんだよ」

「・・・・・・パフェの方が大事」

「何でだよ!」

「・・・・・・バカには分からない」

「何で煽ってくるんだよ!」

「・・・・・・パフェのすばらしさが」

「パフェ食いてぇだけじゃねーか!」

「・・・・・・違うもん。大事なことだもん」

 アリカが顔を膨らまして怒っているようだったので、俺はしぶしぶパフェに付き合うことにした。

「よく分からないけど行ってみるか。・・・・・・ん?」

 後ろの方から誰かに見られているような微かな視線を感じた。

「どうしたの海斗?」

「いや、誰かに見られてるような気がして。・・・・・・いや、何でもない。気のせいだろ」

「そう。それじゃ、ファミレス行くわよ!」

「へい、へい」

 ファミレスに入ると、三人はどのパフェにするか選んでいた。

「あたしチョコレートパフェ!」

「俺は・・・・・・苺パフェ。あ、いや、苺サンデーにしよっと。アリカは?」

「・・・・・・あたしは海斗と半分こする。」

「了解! じゃあ、アイスだとすぐに溶けちゃうから、苺パフェの方がいいな。取り合えず大きいサイズにしとくよ」

店の店員を呼んで注文をし、一息ついているとどこからともなく爺がやってきた。

「わしの分は頼んであるかの?」

「頼んでねぇよ!」

「爺は悲しいぞ。」

「すいませ~ん。悲しい老人で~す。逮捕してくださ~い!」

「誰に言っておるのじゃ!」そう言うと、爺は琴乃の隣に座った。

「爺は森のぬしと信頼関係にあるんじゃぞ」

「嘘つけや!」

「ほんとじゃ海斗。ちとわしの話を聞いてくれんかの」

「うわっ。あたし超絶嫌なんですけど」

 琴乃が露骨に嫌がってる中、爺は昔の自分の昔話を始めた。

「あれは16年前の出来事じゃった。突然空から大きなドラゴンが下りてきて、町中がパニックになった時、爺はトイレでウ〇コをしていたんじゃ。トイレでは買ったばかりの本を読んでいてな、うっかり逃げ遅れてしまったんじゃ」

「その時からトイレでエロ本読む癖ついてたんだな」

「マジでキメェ」

「・・・・・・バカだと思う」

「黙って聞いとれ!」そう言うと爺は再び話始めた。

「また新しいのを買おうと・・・・・・じゃなくて、異変に気付いて外に出ると、もうみんな避難した後じゃった。ドラゴンがすぐそばにいての、そんでもう殺されてしまうと思ったのじゃが、何とか助かるために必死になって命だけは助けてれって頼んだら、暫くわしを見つめた後、なんとドラゴンが町の外に出て行ったんじゃ。それがわしと今の森のぬしとの出会いじゃ。じゃから、あのドラゴンはわしのいう事だけは聞いてくれると思うのじゃ。つまり信頼関係じゃ」

 爺の話が終わり、爺が皆の方を見ると、パフェを食べながらトランプをしていた。

「そっか。クソつまんねー話ありがとな爺」

「待って、アリカちゃんあと二枚じゃん。このままだと今回の奢りは海斗確定ね」

「マジかよ。アリカずるしただろ!」

「・・・・・・殴るよ」

「爺抜きで盛り上がらないでおくれ」

 俺たちがファミレスを出るころにはもうすっかり夜になっていた。

「なあ、アリカ。俺たち剣とか持ってないんだけど、どうすりゃいいんだ?」

「・・・・・・忘れてた」

「マジかよ! 今もう武器屋がやってる時間じゃねーぞ! 何か武器を持ってたりとかしたんじゃないのか?」

「・・・・・・素手」

「ざけんなよ! 死ぬわ!」

「まあまあ海斗。アリカちゃんにも考えがあるのよ。今日のところは帰りましょ。はぁ~楽しかった!」琴乃はしっかり遊んで満足していた。

「マジかよ・・・・・・俺素手で戦うのかよ」俺は目の前が真っ暗になった。

「・・・・・・じゃあ解散。明日、午前九時に私の家に来て」

「ちょいちょいちょい。マジで素手で戦うのか?」

「・・・・・・大丈夫。ドラゴン弱いから」

「いや絶対強いだろ」

「・・・・・・大丈夫。・・・・・・信じて」

 アリカがやけに真面目に言っていたので少し動揺したが、疑うのは止めた。

「分かったよ。お前に命預けてみるよ」

「・・・・・・作戦は命大事にだから」

「「了解」」俺と琴葉同時にそう言った。

「・・・・・・じゃあ、また明日」

 皆は各々家に帰った。俺は風呂やさっきパフェを食べたばっかりだったので、軽く夕食を済ませリビングでゴロゴロしていた。

 ピンポーン 誰かがインターホンを鳴らす音が聞こえた。

「こんな夜遅くに誰だ?」

 俺は扉を開けると、そこにいたのは青髪でポニーテイルのおしゃれな女の子だった。

「えーっと・・・・・・。どちら様ですか?」

「あなたが森のぬしの討伐を任された海斗くん?」

「えっと、・・・・・・そうですけど、誰ですか?」

「へぇ~。意外と間抜け面でバカみたいね」その言葉に俺はムッとした。

 初対面でいきなりなんだよ。

「バカみたいで悪かったな」俺はそう言い返した。

「悪いと思ってるならもっと謝りなさい」

「何だよ。ちょっと可愛くて、色白で、肌がきれいで、おしゃれしてて、モテそうで、大人っぽくて、清楚で、気品があって、胸が大きくて、いろっぽいからって、調子乗んなよ‼」

 頬を赤らめながらこう言った。

「あ、あんた、ほんとにバカね」

 よくよく考えたら調子に乗れる要素のいっぱいある子だった。

「うるせぇ、バカじゃねぇ」俺はとりあえず言い返した。

「まあいいわ。今日は様子を見に来ただけだから。それじゃ、またね」女の子は歩いてどこかへ行ってしまった。

「誰がバカだよ! ったく、は~あ、何だか疲れたからさっさと寝よっと」

 その夜、俺はへんな夢を見た。さっき来た青髪の子がずっと一人で泣いている。ずっと、ずっと泣き続けている。そしてふと、顔を上げてこう言った。

「私を・・・・・・独りにしないで」俺はベッドから跳ね起きた。

「びっくりしたぁ、何だあの夢」鏡を見ると冷汗がすごく、顔色も良くなかった。

 時計を見るとまだ朝の六時くらいだったのだが、朝食をとってランニングに出かけた。すると、昨日の青髪の女の子が一人で公園のブランコに乗っていた。

 俺は今朝の夢を思い出し、声を掛けてみることにした。

「よお」

「あら、海斗くん」女の子は俺を見て少し驚いた表情を見せた。

 俺は昨日の夢のことを話そうとしたが、それはやめて、とりあえず簡単に質問だけしてみることにした。

「お前さ。・・・・・・独りぼっちなのか?」

 それを聞いた女の子は少し固まって俺の方を見たが、また前を向いた。

「ばっバカじゃないの? そんなことないけど?」その動揺からは図星だと言うことがすぐに分かった。

「いや、その。俺と友達にならないか?」

「まだあんたと友達になるのは早いわね。お前みたいなポンコツも気に掛けることはできるんだ」そう言われて、俺はまたムッとして言い返した。

「あー、そうですかそうですか。人がせっかく心配して声かけてんのにポンコツ呼ばわりですか。ポンコツっていう方がポンコツだ。ベロベロベ~」

「殴るわよ」

「殴ってみろよ~だ、ベロベロベ~」俺は後ろに少し走って逃げようとして、また捨て台詞をはこうと女の子の方を見た。

 青髪の子はブランコを降り、数メートルの距離を一瞬で詰めた。

(((なに⁉)))

 俺はそのまま殴られ数メートル程吹き飛ばされた。

「ふびゃっ」

「あんた弱いわね~。今なら謝ったら許してあげるわよ?どうする?」

「へへっ。そんなの決まってるだろ」俺はそう言いゆっくりと立ち上がった。

「そう。謝らないってんなら、こっちも出るとこ・・・・・・」

 俺はきっちり土下座していた。

「すみませんでした!」

「あ、あんたバカじゃないの? そこはもっと果敢に立ち向かうとこでしょ」

「俺はさ、無駄な争いはしない主義なんだ。勝てないもんは勝てない。潔く逃げるタイプだ」俺は青髪の女の子に向かって指をさし、決めポーズをとってめちゃくちゃかっこつけながらそう言った。

「はい、ダサいです。それは喧嘩で負けた後に言うセリフじゃありません」

「うるせぇな。そういえばお前どこに住んでんだ?」

「私は・・・・・・。どこでもいいでしょ! もう帰るわ。ほら、後ろの子、あんたの連れでしょ?」

「え?」

 俺は後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。

「誰もいないじゃねーか」

 もう一度女の子の方を振り返ったが、そこに女の子の姿はなかった。

「あれ。・・・・・・いない」

今回はここまでになります!ありがとうございました。

人気な作品は続きを書きたいと思いますので、是非コメント下さると嬉しいです(≧▽≦)

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