『異世界は魔法の世界で』1章 ~こんな世界なんか~ 長編

ギャグ

こんにちは!いつもお世話になっております。ラノブロです!

今回は異世界もので、長編予定のラノベを執筆しました!! 是非読んで下さると嬉しいです(≧▽≦)

よろしくお願いしますm(_ _)m

登場人物

香坂(こうさか) 彼方(かなた) 16歳 黒髪 身長172cm

アリサ ヒロイン 14歳 ピンクと金髪 ロング 身長146cm

 日が煌々(こうこう)と照り付ける夏、外に出れば部屋の中とは一変した熱風が僕を包み込むことになる。

 こんな暑い時期に、元気に学校に行っている奴の気が知れないよな。元気があれば何でもできる人は、その元気だけで東大とか入ってんのかな。はぁ、暑い日は学校が休校だったらいいのに。・・・・・・まだ朝の七時半くらいか。今日も学校サボろうかな。

 香坂(こうさか)彼方(かなた)は喧嘩や遅刻、授業中の居眠りなど沢山の問題を起こすので、学校では反省文の常習犯だった。何か問題を起こすたびに校内放送で呼び出しをくらっていて、最近だと何のこと呼び出しを食らったのか分からないことが多い。校内放送で呼び出しがかかった直後に走って家に帰った日もあって、校内放送の呼び出しから逃げたことの反省文を書いて、結局校内放送での呼び出しは、何について呼び出しだったのかが分からないという事もあった。

 今日学校をサボったらまた反省文になるのだが、そんなことはお構いなしに、彼方はもう一度眠りについた。

 暫く時間が経っただろうか。寝過ぎで体が重い。ベッドで体を動かすと、うつ伏せになって手元の時計を確認し、ゆっくりと体を起こした。時刻は夕方の四時頃になっていた。

「さて、どう言い訳すっかな」今日は学校に行かなかったので、ベッドの上でボーっとしながら学校をサボった事の言い訳を考えていた。

「う~ん。腐ったバナナを食べて食中毒は使ったし、親が病気だったはバレて反省文だったし・・・・・・う~ん」

 彼方の両親は三年前に事故で他界しているので、こんな自堕落な生活を送っている彼方のことを怒る人は誰もいない。学校側はそれが分かっていたので、サボりの言い訳で「親が病気だった」を使った時は余計に怒られて拘束時間が何時間にもなった。「普通の高校生ならそんな不謹慎なことはしない」と言われたが、彼方の両親は仕事ばかりしていて殆ど家に帰って来ていなかったので、僕は全く不謹慎だとも思わなかった。

 僕は幼稚園も一人で通っていて、小学校の授業参観や運動会に両親が顔を見せたことは一度もない。幼い頃は親ってこんなもんだろうと思っていたが、友達の家に遊びに行ったときに、初めて他の人の家庭環境を知ったことから自分に家は普通の家庭とは違うということが分かった。そして、その時から自分の両親が憎くて仕方がなかった。初めは友達の家庭が羨ましくて、「何で自分の親はこんな奴らなんだよ」と、毎日のように泣いていた。年に数回家に帰って来ても、「疲れているから」と、まともに会話をした記憶がない。今まで一人で生きてきて、金銭面以外で両親に頼ったことはない。サボりの言い訳に使うことは、彼方にとっては何でもないようなことだった。

 事故で死んだと聞かされた時も、特に何も感じず「別にいいや今まで通りの生活をするだけだし、僕には関係ないか」などと、何事もなかったように普段通りの気持ちで、普段通りの生活を送った。今は親が貯めた貯金で生活しているが、唯一残してくれたお金にだけは感謝している。

「くっそー、言い訳が何も思い浮かばねぇな」彼方は言い訳が何も浮かばないままもう一度ベッドで横になった。

 またまた昔の話になってしまうのだが、幼稚園に通っていた頃は三食食パンと牛乳だけの生活だったが、小学生になるとご飯の炊き方を覚え、肉の焼き方を覚え、野菜を追加した健康的なごはんを食べていた。中学生になると、思春期特有の何でも面倒臭がる衝動から、作る事が面倒臭い時にご飯を食べていなかった。そんな生活を何日も続けた結果、体は瘦せ細り、頬はこけ、身体に力が入らなくなった。

 ある時自分の顔を鏡で見ると、こんなガイコツみたいな状態じゃ流石にまずいと感じ、体を治すために筋トレを始めた。その頃から、肉がメインの食事を毎日欠かさず食べるようにしていて、今は筋肉質の良い体をしている。

 ベッドで横になりながらスマホで動画を見ていると、今日一日何も食べていなかったので、流石にお腹がすいてきた。時刻は夜の八時頃で、彼方はベッドから体を起こした。

 腹減ったな、飯・・・・・・今から作るのは面倒くさいなぁ~。今日は久々にコンビニで軽く済ませるとするか。あ~、そう言えばサボりの言い訳も考えないと。

 彼方は歩いて近所のコンビニに行き、スモークチキンと飲み物にプロテインを買った。帰りに何となく河川敷を歩いていると、髪の毛の上半分がピンクで下半分が金髪のロングヘアーの女の子を見かけた。女の子はアニメキャラクター? か何かのコスプレをしていて、白い服にコスプレ用の魔法の杖を持っていた。

「身長140cmくらいかな。もう夜なのに、キッズが一人でこんな格好して歩いているのは珍しいな」

 僕は何となくその子を見ているとその女の子は僕の視線に気付いたらしく、僕と目が合った。僕はなんとなく視線をそらして通り過ぎたが、その子が僕の後を付いて来た。

 何で付いてくんだろ? 迷子か?

 僕は、僕の後を付いてきている女の子の方を向くとこう声を掛けた。

「お嬢ちゃんどうしたの?」その子は一瞬目驚いた様子だったが、すぐに笑みを見せた。

「やっと見つけた」コスプレ少女がそう言うと、持っていたコスプレ用の魔法の杖を振り上げた。杖の先端は淡い光を帯びだし、辺りが明るくなった。

 な、何だ。殴られんのか⁉ こんな小さな女の子と喧嘩する訳にもいかんし、とりあえず逃げるか。

 コスプレ少女は、呪文を唱えるように何かを呟きだしたが、その直後に僕は自分の家へ向かって走り出した。

「ったく何だよ、あの小さな通り魔クソキッズは」彼方は少し走って通り魔キッズを撒くと、また歩きだした。

「はぁ、はぁ、ったく近頃はキッズも通り魔になるご時世なんだな。いよいよ治安のよかった時代ももう終わりだな」

「あたしはキッズでも通り魔でもないから」すぐ後ろから声がしたので、振り返ると、そこにはさっき振り切ったはずの通り魔キッズが居た。そして、またコスプレ用の魔法の杖を振り上げた。

 嘘だろ⁉ 何でこんなに早く追いつけるんだよ、このガキ。

 彼方は再び自宅がある方向を向き、走り出した。暫く走っていると、後ろから声が聞こえてきた。

「待~て~!」棒読みの通り魔キッズの声が聞こえたので、走りながらチラッと後ろを振り返ると、黄金の鎧を着た人が追いかけてきていて、その人の背中にさっきの通り魔キッズが乗っかっていた。

「なっ⁉」彼方は一瞬言葉を失ったが、前を向き走る速度を上げた。

「何で追ってくるんだよ! ってかその金ピカの人誰だよ! さっきまで居なかっただろ!」

「待~て~!」一定のトーンで、本気で待って欲しいのか欲しくないのか分からないような棒読みの待~て~が聞こえてくる。しかし、間違いなく彼方の事を追って来ていたので、全力で逃げきることを決め、また走る速度を上げた。

「付いてくんなぁ!」

 僕の家まであと少し、流石に家の中までは入って来ないだろうから、このまま追いつかれなければ通り魔キッズを振り払える。

 彼方がそう思った時、服の襟を掴まれて後ろに吹っ飛ばされた。彼方は何回か転がって、仰向けで倒れると、彼方の上に通り魔キッズが馬乗りになった。

「あたしから逃げきれるとは思わないことだな」

 初対面の相手に、自分から逃げることができないと思わせどうすんだよ! このガキ!

 黄金の鎧の人は後ろで立っていたが、やがてフッと消えてしまった。

「なっ⁉ ひ、人が消えた! 人が消えたぞ!」

「ごちゃごちゃうるさい! 人じゃなくて化身だから」

「え? なに? 化身? え?」

 彼方が混乱していると、通り魔キッズは杖を振り上げた。杖の先端はさっきと同じように淡く光りだし、徐々に光は濃くなっていった。

 突然足元に虹色の魔法陣が描かれ、魔法陣から光が差してきた。通り魔キッズはボソボソッと何かを呟いていたが、よく聞き取れなかった。彼方は眩しさで思わず目を腕で抑え、光を(さえぎ)った。徐々に眩しさが無くなっていくのが分かり、腕を下しながらゆっくりと目を開けた。すると・・・・・・そこは近所の道ではなく、どこかの部屋の中だった。

 彼方は驚き、状況把握ができず、馬乗りにされたままボケッと部屋の中を見ていた。通り魔キッズは彼方から降りるとこう言った。

「あたしはアリサ。よろしくね」

「・・・・・・なにこれ」彼方は体を起こして、立ち上がるとそう言った。

「ほら、あんたも名前を言って欲しいんだけど」

「香坂彼方、・・・・・・なにこれ」

「コウサカカナタナニコレさんね」

「違うんですけど」

「今自分でそう言ったじゃん! あ、分かったぞ。あたしをからかってんだな。おい!あたしをからかったら許さないぞ!」

「いや、完全に僕がからかわれているだろ。何だよナニコレさんって! 香坂彼方だ」

「コウサカカナタ?」

 そう言えばこいつ自分の事アリサって言っていたよな。って事は苗字は端折って言った方がいいのかな。

 徐々に状況整理が出来てきて、彼方はそう思った。

「彼方だ。彼方って呼んでくれ」

「分かった。彼方ね」

「アリサは魔法使いか何かなのか? おとぎ話やゲームでは魔法使いとかって出てくるけど、そういう類の人? ここは日本のどっか辺境の地とか?」

「ぶー。残念。確かに私は魔法使いだけど、ここはカザス王国ってところで、あんたからしたら異世界だね」

「・・・・・・なるほど」

 これは地球って言うクソゲーみたいな世界から抜け出せたってことなのでは? 僕ってもしかしてめちゃくちゃラッキーな人? なんだか楽しくなって来たぜ!

「コホン、いいですか、よく聞いてください。彼方はこれから私とこの世界で魔物と戦う仕事をしてもらいます」

「おっけー。アリサみたいなキッズでもできる仕事ならバチクソ楽勝でしょ。簡単な仕事(イージーワーク)だなイージーイージー」

「あたしキッズじゃないから。あと、その考え方はダメ。そんなんだと魔物に殺されちゃうよ」

「殺される可能性もあるのかよ!」

「あるに決まってるでしょ、殺されないならわざわざ彼方を連れて来なくても平気じゃん」

 ん? もしかして僕って強いと思われてる? 強いから連れてきたの? 残念ながらおいら、魔法使えないんですけど・・・・・・。

「僕、魔法使えないんだけど、僕ってこっちの人と比べてどのくらい強いの?」

「もし、調べてみて本当に何にも使えなかったら、この世界で下から数えて一番目くらいに強い」

「それって一番ザコいって事じゃねぇか!」

「だってみんな魔法使ってるんだもん。彼方が使えない訳ないもん」

「そうか、・・・・・・それじゃ僕は素手で戦う方法を考えておくよ」

 みんな魔法を使っているってことは、さっきの黄金の鎧を着ていた人って魔法で出したって事だな。走っている僕に簡単に追いついて、尚且つ走っている僕を片手で後ろに吹き飛ばす程の力がある。アリサでそのレベルって事は他の人はもっと強いだろうし、最低でもそのくらい強くないと魔物に殺されるのでは?

「僕が魔物に殺されたら元の世界に戻って復活。みたいなオチないの?」

「無いね。よろこべ、あたしが火葬してあげるわよ」

「喜べねえよ!」

「何でだよ喜べよ。ふざけんなぁぁぁ!」

「ふざけんなぁぁぁ! じゃねぇよ! 本気で僕を喜ばそうとして言ってるわけじゃないだろ、叫んでまでして反論しなくていいじゃんか! 逆にさ、何で火葬されるって聞いた僕が喜ぶと思ったの? この世界の人は火葬されるって聞くと喜ぶの? 僕、そんなこと聞いても絶対喜ばないよ」

「じゃあいい、ところで彼方は何歳?」

「あ、えっと十六歳だよ」

「ふ~ん。じゃあ、あたしの方がお姉さんだね」

「嘘だろ⁉ こんなにちっこい奴より僕の方が年下なわけ・・・・・・」アリサの後ろにあるカレンダーに書き込みがしてあった。どうやら今月で十四歳になったらしい。

「十四歳な、はい、僕より年下」僕がそう言うとアリサは焦り口調で騒ぎ出した。

「嫌ぁ、なんで分かったの」

「後ろにカレンダーが」僕はそう言ってカレンダーを指さした。

その直後にアリサは、「これがなければバレなかったのに」とカレンダーをビリビリに破り捨ててしまった。

(((こいつは頭が悪そうだ)))

「何で隠すんだよ」

「だって舐められたくなかったんだもん。あたしはお姉さんが良かったもん」

 アリサが露骨にしょぼくれている。あまりの幼さに到底十四歳にも及ばないような子どもなんじゃないかと、十四歳という年齢にすら疑問に感じる。

「一先ず僕はどうすればいいんだ?」

「んーっと、どんな魔法が使えるか分からないといけないのと、身分証明書の発行と職業登録もしたいから、とりあえず会社に行こうよ」

「会社? その年齢で会社に勤めてるのか?」

「うん。起業した」

 アリサって実はものすごく実力のある天才だったのか⁉ 十四歳で起業⁉ 異世界に連れて来られてから一番驚いているのこれなんだけど⁉ 魔法が使える事よりこんなちびっこいガキんちょのアリサが起業できるって事の方が驚きなんですけど。僕も何かいいアイデア見つけたら、とっとと起業しようかな? あ。でも僕、魔法使えないんだったわ。

「あ、言っとくけどあたしが社長だから。あんたあたしの部下だから」

「分かった。分かったよ。すごく悔しいけど、部下でいいよ」

 二人は家を出てアリサの会社に向かうことになった。家から外に出てみると、五階建てマンションの三階で、エレベーターが無かったことや、建物が一色の大きな石を削って作られているような作りから、魔法で作られていることが分かった。

 アリサに引っ付いて外を歩いていると、マンションは石、一軒家は木でできていることが分かった。

「着いたよ」

 アリサがそう言ったので、見ると木でできたログハウスのような木造の大きな一軒家が建っていた。玄関前の階段は石でできていて、手すりの掴む所が木、支えている部分が石でできていた。

 玄関前の立て札には、『魔物相談事務所サーファ』と書いてあった。

「お邪魔しまーす」彼方は誰かいるかもしれないと思い、恐る恐る小声でそう言いながら扉を開けた。しかし、中には誰もいなかった。ポツンと二つデスクワーク用の机が置いてあるだけで、何もない殺風景な仕事場だった。

 魔物と戦ってもらうって言ってたし、立て札に魔物相談所って書いてあったことから、仕事で魔物退治をやる会社なのだろう。それにしても、広い部屋に机が二つ置いてあるだけじゃ仕事にならないだろ。

「なあ、アリサ」

「何? 凄すぎてびっくりした? 結構依頼来るんだよ」

「うん。凄いとは思ったけどさ(嘘)、この仕事で月にどのくらい稼いでるの?」

「五万とか十万とか」

「ほぇー・・・・・・。こっちの方が地球と比べて物価が安いんだな」

「え、同じくらいだよ?」

 あ、終わった。死ぬリスクのある魔物退治の仕事で多くて十万しか入って来ない。社内はどう見てもデスクワーク用の机が二つあるだけだし。僕を連れてくるために机を一つ追加しただけにしか見えない。そもそも地球と同じくらいの物価で、十万円入ってきたとしても二人で生活できるかどうか危うい。

「お客さん用のソファーとか机ってないの?」

「あ、彼方頭良いな。そういうのも買っておこ」

「今までお客さんが依頼しに来たときどうしてたんだ?」

「立ったまま話聞いてた」

 会社運営の知識はないけど、依頼しに来た人と立ったまま話してちゃダメだよ。何かこっちの世界での僕の人生もう既に積んでそうで心が痛い。

「彼方、これ持って」アリサは机の引き出しから自転車のグリップのようなものを取り出すと、彼方にそれを渡した。真ん中にある突起の先端には紙が挟んである。よく分からなかったが、彼方は自転車に乗った時と同じ要領でそのグリップをの両端を握った。

 突起についてある紙を見ていると、紙が眩く光り出し、紙に光る文字が浮かび上がってきた。光が収まると、アリサがその紙を取ってまじまじと見ていた。

「アリサ、それなんだ?」

「え、何の魔法が使えるのかとか、自分の実力とか色々なことが書いてあるやつ」

「ステータスボード?」

「あ、それ。それだと思う。確か学校でそんな感じのこと先生が言ってたよ」アリサはそう言いながら彼方のステータスボードを見つめていた。

「僕、何か魔法使えた?」

「う~ん。魔法は雷属性があるから使えるけど、見たことが無いスタイルが書いてある。あと、ランク0って初めて見た。ランク0ってこの世界に彼方しかいないと思う。あと、多分ちょー弱いと思う」

「・・・・・・超弱い。ちょっと見せて」

 総合評価ランクゼロか・・・・・・。うん、そこそこゲームとかやってたから分かるけど、僕超弱いね。連れてきてもらって早々申し訳ない気持ちにしかならないよ。彼方は涙をぐっと堪えた。

「まあいいや。彼方はちょー弱いけどしっかり働いてね。運がいいから多分死なないと思うよ」

 う~ん・・・・・・何て言えばいいんだろう。異世界に来たことで嬉しかった数時間前が嘘のように懐かしい。だって僕、超弱いんだもん。どうしようもなく弱いんだもん。

「はい社員証」彼方がボケッとしている間にアリサが社員証を作ってくれた。

「これがあればあたしの会社で働いている証明になるから。警察に職質された時はそれを見せつけて対抗してね」

「警察の職質に対して対抗心燃やしてるやつ初めて見たんですけど⁉」

「先ずはお礼を言いなさい!」

「はい、ありがとう」

 僕は社員証を裏面で渡されたので、表にしてみると、彼方の顔写真が印刷されていた。写真は超弱いと言われた後の僕が、半泣きになっている顔だった。

「ざっけんなアリサ!」僕は社員証を床に叩き付けた。

「何? どうしたの?」

「僕の社員証の顔半泣きじゃねぇか! アリサの社員証を見せろや!」

 きっと可愛く写ってるに違いない。アリサの社員証と比べて文句言ってやる。

「はい、あたしの」

 アリサから社員証を受け取ると、アリサの顔は両手の人差し指を口に突っ込んで『いー』と、口を横に広げて舌を出している写真だった。

 ちくしょう! アリサのやつもぶっとんでて文句が言えねぇ!

「それじゃ、公園に行って雷の魔法使ってみようよ」

「そ、そうだな。なんだか異世界らしくなってきたな。僕も早く魔法使ってみたいぃぃ~」

「彼方ちょー弱いから沢山魔法使って強くなってね」

「・・・・・・あい」

「それまではあたしが養ってあげるから。今あたしすっごくお姉さんでしょ?」

「はい。凄くお姉さんです。クズニートにならないように頑張りますお姉さま」

 二人はアリサの会社、サーファを出て近くの公園に来た。公園には魔法の練習をしている人がちらほらと見受けられ、彼方は高揚感に溢れた。

「すっげぇ、手から水を出してる人いる。水の色が水色でキラキラしてる。あ、あっちは風だ。すっげぇ、魔法で風を出すと風に緑の色が付くんだな」

「それじゃあ、先ずはあたしがやるから見ててね。初級魔法はこうやって手を伸ばして、腕に力を入れて、詠唱をする。そんで、撃つ瞬間に力を抜いて前に手首を返す」

「「「火弾(ひだん)」」」

 サッカーボールくらいの丸い火の玉がアリサの手から飛んでいき、遠くにあった木に激突した。木が燃えることはなく、当たったところが若干焦げているくらいだった。

「こんな感じ。杖を使うともっと威力が出るんだけど、彼方はまだ杖を持ってないから今みたいにやって」

「わっかりましたぁぁ! ですがこの私、一つ、アリサさんに言いたいことがあります、です!!」

「はい、何でしょうか!」

「こんなの絶対にできないと思います! です!!」

「ごちゃごちゃ言わずにやらないとニート癖が付きますよ」

「ニート癖って何だよ!」

「ごちゃごちゃ言わずにやる!」

「や、やってみますです!」

 そのやり方で地球の人が魔法を使えていたら、今頃大パニックだろうな。

 彼方は絶対無理だと思いながらも、手を前に出した。

「彼方は雷属性だから伝雷(でんらい)って詠唱してね」

「う~い」腕に力を入れて、打つ瞬間に力を抜いて手を返す。

「「「伝雷(でんらい)」」」

 彼方の手からは青白い雷が出て、遠くの木に当たって消滅した。青白い雷は、直径三十センチ程の一本の線で、波打つようにカクッカクッと上下に方湾曲しながら進んで行った。していた。速度はアリサの火弾より倍くらい速かった。

「何ですとぉ⁉」

「ほらできるじゃん」

「いや、地球じゃ全くできなかったんだぞ、何で突然こんなことができるようになってんだ!」

「フフ~。それはね、こっちの世界に来ると・・・・・・魔法が使えるようになるのでした~!」自慢げに話していたが、何で来ただけで使えるようになるのかは不明。アリサが地球でも使っていたことから、一度使えるようになれば一生使えるもんだと思っていいのだろう。

「何か他に雷属性の魔法ってないのか?」

「えっとねぇ、・・・・・・無い!」

「え、無いの?」

「うん。初歩の魔法以外はみんな自分で考えてるの。そんでね、誰かに教えてもらえば教えてもらった魔法は使えるようになるけど、それ以外だと今の初歩の魔法を応用して自分で考えないといけない」

 なるほど。自分が考えた魔法を他の人に教えても何にも得しないし、恐らくお金と引き換えにって事だろう。誰かに教えてもらえばって言ってたけど、魔法を教える塾を開いている人がいるって事だろうな。だとしたら月給十万じゃそこに通うのは無理っぽいし、アリサも化身ってやつを出していたから、アリサが使える他の魔法を見て自分で考えてみようかな。

「じゃあさ、何かアリサの魔法見せてよ。参考までに」

「いいよ、何がいい?」

「じゃあ、とりあえず化身で!」

「おっけ~」

 アリサは杖を右手で持った。アリサが右手を前に突き出すと、杖の先端が光りだした。

「「「(ひかり)化身(けしん)」」」

 杖先から出た光から黄金の鎧を着た化身が現れた。

 こいつ光の化身って言うのか。それにしても、見ているだけじゃ全く分からん。ん? 待てよ。アリサがさっき使った火弾は炎属性たけど、こいつ炎と関係なくねーか?

「アリサは火弾って魔法使っていたし炎属性だよな?」

「ああ、んとね。あたし炎と光が使えるの」

「はい、出ましたチート属性持ち。アリサは弱っちぃもんだと思っていたけど、恐らく結構強い方なんだな」

「あたし弱っちくないから」

「うん。弱っちくなかったって言ったんだぞ」

「弱っちくないからぁぁぁ!」

(((うるせぇ!)))

「こいつの出し方教えてくれない?」

「光の化身は光属性の固有魔法だから出せない」

「全然参考にならないじゃんか」

「・・・・・・だって・・・・・・だって自慢したかったんだもん」アリサは不貞腐れたようにボソッとそう言った。

「そ、そうか。そうだな。凄いぞアリサ、光の化身かっこいいなぁ」

 いかんいかん、十四歳の女の子を泣かしたらシャレにならんぞ。

「かっこいいじゃなくて可愛い」

「可愛いなぁ光の化身。凄いなぁ」

 光の化身可愛くねぇだろ! ゴリゴリのムキムキじゃねぇか!

「あと強そう」

「うわ~強そうだなぁ。凄いなぁ~」

「あと羨ましい」

「うわ~羨ましいなぁ。凄いなぁ~」

「あと輝かしい」

「ぶっ飛ばすぞテメェ‼」

 調子に乗りやがって。僕はいつかこいつを殺めると、今心に決めた。こいつを簡単に生かしておいてはダメだ。夜道には気を付けろよ! #ブチ切れなう。

「えへへ、じゃあ今度は彼方が真似できそうなやつやるね」

「それで頼む」僕がそう言うと、アリサが杖を左手に持ち替え、右手を前に突き出した。そのまま右手を胸に当てた。

「「「ヒール」」」

 アリサの周りが淡い光で白く輝きだし、徐々に光が収まっていった。

「今のが回復魔法だよ。こんな感じで自分に掛ける魔法ならすぐに使えるようになると思うよ。ヒールは他の人にも掛けれるんだけどね」

「なるほど。やってみる」

 先ずはどんな魔法を使いたいかだな。地球にいた時は毎日ランニングや筋トレしていたこともあったな。雷属性で自分に掛ける魔法だったら走る速さを上げるって感じかな。

 僕は右手を前に突き出した。

 光のように早く。雷のように一瞬で動けるように。名前は・・・・・・これにしよう。

「「「雷光(らいこう)」」」

 僕が右手を胸に当てた途端、一筋の青い雷が体を纏った。青い光は消えずに僕の体をぐるぐる回っている。そして、走り出そうと、一歩踏み出した時その一歩がものすごい距離を進んだ。地面と足の裏には青い雷が走っていて、地面から足が離れた時にパチパチと音が鳴った。

「うおおおぉ!」

 一歩が大きすぎて走り続けることはできなかったが、その一歩で跳びはねるように十メートルくらいの距離を進むことができた。

「アリサ~! できたぞ~」彼方は遠くからアリサに声を掛けた。

「な~に~? 聞こえな~い」

 聞こえないか、五十メートルくらい進んできたし、聞こえないのも無理ないか。

 僕はピョンっと跳びはねながら声を掛け、聞こえるところを探りながらアリサの所に戻った。

「ここなら聞こえるか~?」

「な~に~? 聞こえな~い」アリサが叫んで返事している。

 まだ聞こえないか

「聞こえるか~?」

「な~に~? 聞こえな~い」

 もう十五メートルくらいしか離れてないんだけど・・・・・・。

「さすがにもう聞こえるだろ?」五メートルくらいの距離に来た。

「な~に~? 聞こえな~い」

 これもしかして、雷光使うと僕の声が鈍って聞こえにくくなるのか?

 試しにアリサの目の前に来て話しかけた。

「なあ、僕の声おかしいか? 雷光使うと相手に上手く伝わらなくなるのか?」

「もう彼方の声なんか、いっしょー聞こえないから」

 クソッ 聞こえていないふりしていやがった。

「何で怒ってんだよ」

「彼方があたしから逃げようとしたから」

「何で逃げようとしたと思ったんだよ。アリサから逃げるために雷光を使えるようになったわけじゃないんだぞ」

「彼方のこと放し飼いにしてると逃げるってことが分かったから。あたしも学んだから。次は首輪で繋いどくから」

(((僕はペットじゃねぇよ!)))

「逃げないから、逃げないから雷光練習してていい?」

「逃げたら捜索願出すからな」

「そこはペットと同じやり方でビラ配って探さないんだな。まあ、分かった。どうせ逃げないからいいよ」

 僕は雷光を使いながら仮想敵を想定し、戦うイメージをしながらキックやパンチを出してみた。前傾姿勢で踏み込むと、あまり体が浮かないのでパンチが撃ちやすく、少し斜め上に、軽く跳ぶように踏み込むと、顔の高さに蹴りを当てることができることが分かった。

 僕は夢中になってしまい、三十分程体を動かし続けた。雷光を使っていると、体が動かしやすく、初めての動きに高揚感や楽しさがあった。

「いや~、魔法って最高だな。すっごく楽しかったぜ。そろそろアリサの所に戻るか」彼方はそう思い、アリサが居た所を見ると、アリサがいなくなっていた。

 ちくしょう! 逃げられた! あいつ人には逃げるなとか言ってたくせに!

 僕は雷光を使いながら、素早くサーファに戻った。 バタン 彼方は勢いよく扉を開けた。

「おいアリサ、僕を置いて帰るなんて酷いじゃんか!」

 アリサはコーヒーを飲みながらお菓子を食べていた。

おいひい(おいしい) もぐもぐ」

 マイペースすぎるだろ。僕が練習している三十分そんなに苦行だったか?

「帰って来たから次の場所行くよ。今帰って来て彼方のために下調べしていたの」

 マイペースすぎるって思ってごめんな。しっかり僕の事考えてくれていたんだな。

「次はどこに行くんだ?」

「カザス王国の外のカザス平原。そこに居る魔物と彼方を戦わせるの! どっちが強いか試してみたくなったから試しに戦わせてみるの!」

「僕はカブトムシじゃないんだぞ。そういう事は試しちゃダメなんだぞ」

「それじゃあ行こう!」

「ちょっと待て、魔物と戦ったら最悪死ぬんじゃないのか?」

「カザス平原の近くはちょー弱い魔物しかいないから大丈夫だよ。彼方と似た者同士だね」

「一言余計だ。まあ、いざとなったら助けてくれよな?」

「分かってるよ」

 僕の魔物との実践練習のために、二人はカザス平原に行こうとしたが、カザス王国の出入口の門で身分証の確認があった。

ヤバいな、あの顔写真じゃ出られないだろ。そうだ、アリサも変な顔だし、アリサに先に行ってもらおう。

「アリサ、先に門から出てみてもらえるか?」

「なんで?」

「アリサがしっかり出るところを見たいんだよ」

「え、なんで? あ、さては逃げる気だな? 全く、すぐに逃げようとするんだから」

「さっき突然いなくなったのはアリサの方だろ! ったく、まあいいよ。じゃあ僕から行くよ」

 僕が普通に通り抜けようとすると、門番に声をかけられた。

「きみ、身分証は?」

 ですよね。身分証出しますよね。皆出してましたもんね。

 僕は恐る恐るアリサの社員証を出した。

「むむむっ」門番は、社員証と彼方の顔を何回も見比べてため息をついた。

「きみね、ダメだよこんな身分証じゃ」

「ですよね。僕もそう思ったんです。門番さんと全く同じ意見です。僕はここを通るたびに半泣きの自分の顔を見せつけないといけないんです。めちゃくちゃ新しい社員証にして欲しいです。そうだ、通れなかったことにして、新しいの作らせましょうよ・・・・・・うん。それが良い」

「ちょっと見せて」聞いていた門番が、彼方のところに来て身分証を見た。

「あ~。サーファの社員さんか。お、やっぱり後ろにいるのはアリサちゃんだね。通っていいよ」門番がそう言ったので、彼方はこう言った。

「え、良いんですか? 何なら通れないって言って作り直して来ても良いんですよ?」

「いやいや、アリサちゃんの会社にそんなことしないよ。アリサちゃん頑張ってるみたいだから、しっかりサポートしてあげてね」

「え、は、はい。分かりました」

 門番が彼方の事を通してしまったので、彼方は作り直せなくなってしまった。

[カザス平原]

続きはカザス平原でのストーリーになります!!

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

また更新したら読んで下さると嬉しいです(≧▽≦)

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